大正七、八年頃、"文学"をめぐってその直前の時期とは微妙だが決定的な変化が生じる。個性や独自性を重視するクリテリアが支配的な位置につき、"深み"への志向が顕在化する。この変化によって、作品/作家評価のあり方や、理想とされるモデルや、"文学"とそれ以外とを分ける境界線などが明らかに変更され、時評類などを通してたえずそれらは遂行的に再確認されていく。標準的な文学史に登録された名が多数現れたこの状況の様相とその意味合いを考えることは、自明視されてきた"文学"という価値の内実の一端とその歴史を再考することにつながる。
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