本稿は,森岡清美の研究の軌跡を,戦後日本の家族社会学研究の動向および家族変動の実相との関連で位置づけ,今日的な視点から評価することを目的とする.森岡は自身の研究の軌跡を4つのステージに分け,各期の研究成果の確認と反省を踏まえ,次なるステージの研究課題を定めていた.第1期の準備期を経て,第2期には核家族論を確立し,家族周期論の成果を世に問うた.しかしながらこの時森岡は,家族周期論の限界を認識しており,第3期にはライフコース論にこれを打破する可能性を期待した.同時に,家族変動論への取り組みに強い意欲を示すものの,最終的に自身が納得できる成果をまとめることはできなかった.「個人化」などの家族の集団性のゆらぎや,家族研究それ自体の多様化傾向のなかで,彼は新たなパラダイム転換への挑戦を後続世代に託したのである.
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