トーマス・マン(1875-1955)の小説『ファウストゥス博士』(1947)は、主人公である作曲家アードリアーン・レーヴァーキューンの生涯が、第二次世界大戦で崩落を迎えようとするドイツの状況と重ねて、書かれている作品である。『ファウストゥス博士』における、これまでの音楽学的な考察としては、現代音楽とその作曲技法や音楽家に焦点を当てた研究は見られたものの、ほぼ同じ頃に演奏実践の分野において成立した、古楽の問題を主題とする研究は少ない。
本稿は、『ファウストゥス博士』から古楽に関わる事象を挙げ、ドイツにおける古楽運動史と照合させることで、1940 年代までのドイツの古楽について再検討を試みるものである。
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