本稿では,小学校国語科教科書に掲載されている伝記教材を軸に学習マンガ,映画を対象として被伝者「宮沢賢治」の語られ方の差異について検討した。 従来の単一テクストの伝記教材のみの学習では,被伝者を多面的に見ることや,筆者の存在に意識的になることが難しいとされてきた。また,被伝者と学習者の距離感が課題とされてきた。そこで,学習マンガや映画を含む複数テクストを用いた比べ読みを行うことで,そのような課題を克服し新たな伝記教材の価値とともに,複数メディアによる教育の新たな可能性を提示することを目的とした。分析の結果,テクスト間の語られ方の差異や,そこから与える被伝者像が変化していることが明らかとなった。大学4年生を対象とした授業実践においてもテクストによって与える被伝者の印象が違うことや,被伝者の様々な一面に出会えたことから被伝者と学習者の乖離についても本稿の内容が一助となることを示唆している。
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