【はじめに】多系統萎縮症(以下,MSA)は進行すると,嚥下障害を併発することが多く,また同時に自律神経障害も合併する.今回在宅で,嚥下障害に対して食道分離術を施行し,食事摂取が可能となったが,自律神経障害のうつ熱によって嚥下機能に影響を及ぼしたため報告する.
【説明と同意】口頭にて説明し承諾を得ている.
【症例紹介と経過】60 歳代男性,疾患名はMSA,現病歴は平成19 年に発症.平成25 年誤嚥性肺炎を発症し,気管切開,胃瘻造設,バルーン装着し臥床状態となり,訪問リハビリが開始となった.平成26 年に食道分離術を施行した後,半年間の介入によりYahr 分類5,運動構音検査(以下,AMSD)呼吸4 点,発声0 点,鼻咽腔閉鎖4 点,口腔構音では運動22 点,速度13 点,筋力10 点,改正水飲みテスト4,RSST は2 回,食形態は介護食となった.FIM は77 点,基本動作軽介助,座位監視,歩行軽介助となり血液データとしては,電解質,炎症反応に問題は認められなかった.その後,外気温の上昇によって体温が38 度となった.38 度時に全身倦怠感,動作緩慢が出現しAMSD が呼吸2 点,発声0 点,鼻咽腔閉鎖1 点,口腔構音として運動10 点,速度3 点,筋力6 点,改正水飲みテスト3,RSST は0 回と変化したが血液データには影響は認められなかった.
【治療と結果】関節可動域,基本動作練習,体位変換,室内温度調節,両脇下に氷嚢と水分補給によって,体温が36 度台までに低下した.またAMSD も半年間介入後直後のレベルに変化した.
【考察】MSA は進行とともに発汗障害が高度となるとうつ熱を併発する.うつ熱は脊髄中間外側核の機能障害によって起こり,進行とともに上行していく.今回,うつ熱から体内の水分量低下,軽度脱水症状によってドパミン神経機能が低下し錐体外路症状が強く出現し嚥下機能に影響を及ぼしたと考える.今後,MSA などの自律神経障害を呈する神経変性疾患は,体温調節機能を考慮し対応する必要があると考える.
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