モンゴル国西部アルタイ地域の遊牧民には,イヌワシ(Aquila chrysaetos daphanea)を鷹狩用に捕獲・馴致する伝統が受け継がれている.鷲使いたちは,巣からヒナワシ“コルバラ”を捕獲するか,成鳥“ジュズ”を罠や網で捕獲する方法でイヌワシ(雌個体のみ)を入手する.そして4~5年間狩猟を共にしたのち,性成熟を機として再び自然へと返す「産地返還」の習慣を「鷹匠の掟」としてきた.しかし近年,こうした環境共生観の伝統知は熱心に実践されているとは言い難い.一部のイヌワシの交換,取引,転売は,地域の遊牧民や鷹匠にとって「現金収入」「生活資金源」となることもある.現存のイヌワシ飼育者(n=42)へのインタビューから,1963年~2014年までの52年間で入手履歴222例/離別履歴167例が特定された.しかし新規参入者の停滞に反してイヌワシ入手件数は増加する傾向にある.またイヌワシとの離別では,「産地返還」された個体は47.7%とそれほど高くはなく,「死別」「逃避」が全飼養個体の38.0%を占める.こうした結果からは,カザフ騎馬鷹狩文化がイヌワシ馴化・飼養の伝統知とともに連綿とつちかわれた自然崇拝観の継承・実践も鷲使いたちに徹底させる必要が,いま浮かび上がっている.
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