アニメ産業において制作者が用いるスキルは客観的な形式で表現されないが,同業者内では理解可能な形で共有されているという特徴を有する。本稿では,評価の基準が変わりながらその都度の状況に適切な判断がなされることを意味する「浮動する規範」という考え方に依拠しながら,アニメ制作者の語りに基づいて彼らが理解する実力の内実を明らかにした。その結果,同じ監督層であっても,工程全体を見渡すことを経験した制作進行や撮影職出身者と,作画や映像表現に特化したアニメーター出身者では準拠集団が異なっており,それによって異なる技能観を有していることが明らかになった。さらに,アニメーター同士のスキルはそれぞれ自らを他者から差異化することに形式として理解可能なものとなっていた。こうした知見に基づき,客観化されず関係性に基づくスキルであっても,OJTを通したスキル形成が重要性を持つことを示唆した。
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