糖尿病合併症に関わるリポ蛋白異常の役割を明らかにする目的で, 今回リポ蛋白のPAGdisc電気泳動上しばしば見られるβ画分α側の小ショルダーをFastβリポ蛋白と名付け, そのサイズを検討し, 糖尿病状態が本画分の出現に及ぼす影響, および糖尿病性網膜症, 腎症との関係を検討した. 対象は検診受診者非糖尿病例 (対照群) 167名と当院通院中の糖尿病患者112名とした. Fastβリポ蛋白のサイズを電子顕微鏡およびゲル濾過法で検討するとβ画分中最もサイズが小さかった. Fastβリポ蛋白の糖尿病患者での出現率は48.2%と対照群の10.1%に比し約4.8倍高かった. 脂質値をみると本画分陽性群は陰性群に比し対照群では中性脂肪 (TG) 高値, 高比重リポ蛋白-コレステロール (HDLC) 低値であり, 総コレステロール (TC), Lp (a) 値には有意差は認められなかった. 一方糖尿病群では本画分陽性群は陰性群に比し, HDL-C値が低く, TC, TG, Lp (a), HbAlc値に有意差は認められなかった.また本画分の出現は対照群, 糖尿病群ともにmidbandと共存する傾向が見られた.糖尿病性網膜症, 腎症合併例における本画分陽性率はそれぞれ63.9%, 56.8%と非合併例のそれぞれ43.9%, 44.2%に比し高かった. 以上よりFastβリポ蛋白はLDLのうち小型の画分であり, 糖尿病状態がその出現に促進的に働き, かつ糖尿病性網膜症, 腎症の発症に関与することが示唆された.(1995年日本糖尿病学会にて発表)
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