目的 本研究の目的は,介護保険制度下における在宅介護サービスの過少利用の要因を分析することにある。過少利用は支給限度基準額を介護ニーズ量とみなし,それと対比して実際の利用額がどの程度乖離しているか,その割合で評価した。行動モデルを参考に,ニーズ要因として要介護度を,過少利用の促進要因として同居家族の存在および低所得を,先行要因として家族介護意識を投入し,これらの要因が過少利用に与える直接効果ならびにニーズ要因と促進要因との交互作用効果を検討した。
方法 東京都内の 1 つの区を対象に,認定者(施設サービス利用者を除く)から1,500人を無作為に抽出した。要支援と要介護度 1 については認定者本人に,要介護度 2 以上については介護者を対象に訪問面接調査を実施した。実施時期は2000年11月であった。在宅介護サービス利用に関する情報は保険者である区から入手した。
結果 過少利用の割合は69%であり,利用量は介護ニーズ量の半分以下にとどまっていた。過少利用の要因を分析した結果,同居家族がいる,年収が120万円未満,認定者や介護者が家族介護意識をもっている場合に過少利用の割合が高かった。さらに要介護度と同居家族の有無との間に有意な交互作用がみられ,同居家族がいない場合には要介護度に関係なく過少利用の割合は低かったが,同居家族がいる場合には要介護度が高くても在宅介護サービス利用量は増加していなかった。
結論 介護保険制度では要介護度の認定にあたって,私的な介護基盤を考慮しないとしているが,現実は私的な介護基盤がある世帯では認定者の過少利用が多く発生していること,さらに低所得者に対しては利用料負担の減免措置がとられているにもかかわらず,過少利用が高頻度で発生していることが示唆された。
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