後白河院近臣が平氏討伐をくわだてた鹿ヶ谷事件を、『平家物語』は藤原成親が主導した暴挙として描く。これまで、鹿ヶ谷説話での成親と西光との違いはそれほど明確ではなかった。だが、延慶本や『源平闘諍録』を検討すると、西光は成親とは異なり、道義的な動機から平氏討伐に加わっていたことがわかる。平氏の滅亡は天意であると述べる西光は、『平家物語』の主題とも係わる人物として構想されていたのである。
其磧には、前後編で刊行された時代物浮世草子が数作ある。典拠とされる演劇作品自体に続編があるというわけではないが、前後編を意識して十巻に構成した作品となっており、内容の連続性もある。これらの作品を考察していくと、其磧が時代物浮世草子の方向性として長編化を志向していたことが見えてくる。八文字屋本という商品化の結果、結局は五冊の体裁が定着するが、この前後編作品には、後期読本における長編を先取りするような、其磧の執筆意識をみることができる。
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