今回新たに出現した岡田文書は, 幕末明治の漢方医岡田昌春 (1827-1897) の家伝資料で, 昌春没後100余年間, 子孫によって伝えられた良質かつ稀少な医学史料群である。従来の岡田昌春の認識は明治漢方医家群像の一人に過ぎず, その他の岡田家歴代の認識は皆無であった。本研究により江戸中期から明治期まで6代に亘って医業に従事し, 幕府医官にまでなった岡田家の歴史の概要が明らかになった。昌春の養父・昌碩の薬方書からは, 元来外科を専門とした岡田家の家学が知られる。医学館に学び
多紀氏
の医統の正系に属する昌春ならではの遺品としては, 多紀元恵『藍谿先生薬室規条』草稿, 多紀元簡『医籍攷(初稿)』『病名纂』,『千金月令』(医方類聚採輯本)等の稀書が残る。昌春の後半生をいうどる明治10年代以降の漢医存続運動のなかで, 特に親交のあった浅田宗伯の遺品として, 新出の医学随筆 (失題), 宗伯の書入れがある昌春の原稿, 書簡62通等も貴重視される。
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