【目的】人が立位姿勢を保持する上で、直接大地に接するのは足底のみであることから、足底からの感覚情報は重要な役割を果たしている。大久保らは足底圧刺激を増加させると、求心性インパルスを増加させ体動揺処理機構に有効に働き、静的立位の重心動揺面積、動揺距離、動揺速度が減少したと述べている(耳鼻臨床第72巻第11号、1979年。)。
そこで今回、足底刺激量を増加させることで触覚および動的バランスにどのような影響があらわれるかを検討した。
【方法】足底刺激は塩化ビニール樹脂製の約1~5mmの突起が付いた靴中敷(以下、中敷)を使用した。FRT値測定には、コの字型をしたスタンドの上方のパイプにメジャーを貼り付けたものを使用した。
重心動揺の測定には、Twin Gravicoder G-6100 (アニマ社製)を使用し、総軌跡長、外周面積、矩形面積、X 方向軌跡長、Y 方向軌跡長を算出した。
対象は運動器疾患および中枢神経・抹消神経疾患がない健常者39名(男性19名、女性20名)で、平均年齢が21.54±4.6歳。
測定方法は、足底へ刺激を与えない場合と中敷上に1分間立位を保持させた直後のFRT値を測定し、その際の重心動揺を計測した。また、足底の触覚の検査にはセミスワインスタインフィラメントを使用し、母趾球を測定部位とした。
統計学的解析は、刺激前後の感覚検査の値及び、FRT 値、重心動揺計で算出した7項目とも、対応のある t 検定で比較検定した。
【結果】触覚検査では、刺激前は触覚閾値1.08±0.63gであったが、刺激後は0.87±0.6へと有意(p<0.01)に減少した。また、FRT 値は刺激後で有意(p<0.01)に増加した。さらにFRT時の重心動揺測定では、足底刺激ありで総軌跡長、XおよびY方向軌跡長、外周面積が有意に(p<0.05)増加し、矩形面積も有意(p<0.01)に増加した。
【考察】大久保は、前述したように足底刺激が体動揺処理機構に有効に働くと述べており、また望月は、バランス機能を重心動揺と重心移動域の関係性から、健常者は重心動揺が小さく、重心移動域が大きい安定型と述べている(PT ジャーナル第30巻第5号、1996)。すなわち、今回測定した総軌跡長とX 方向軌跡長、Y 方向軌跡長を重心動揺と捉え、外周面積、矩形面積を重心移動域の要素と捉えることができる。
したがって、中敷での刺激は、触覚閾値を低下させ、足底部の触覚受容器を活性化させた点と、FRTにおいて重心動揺と重心移動域を相対的に拡大させ、その値を有意に増大させたと考えた。すなわち、足底刺激は、バランス制御を担う受容器および効果器を活性化させ、求心性インパルスを増大させ、バランス機能を向上させたと考えた。
今回は、短時間刺激の即時効果を検証したが、今後は長時間の長期的な効果を追究したい。
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