『北条氏給人所領役帳』の地域区分は、従来の枠組みとは異なる新たな地域を示している。このうち武蔵国の小机と稲毛に属する所領は入り組んでいるが、稲毛とされた所領は、ほとんどが自立的な戦国領主的実態を持つ江戸太田氏の所領に由来しており、この地域区分は北条氏と太田氏の政治的な関係に規定されたものである。また江戸から小机にかけての地域では、小机衆や太田新六郎衆などに一族が分かれている在地領主が目立ち、北条氏などによる編成とともに、それ以前からの秩序の流動化を窺わせる。新しい地域秩序は、その輪郭が曖昧で流動的であるが、戦国大名や戦国領主の政治的な関係性のなかで領域が確定されていく。北条分国では『役帳』作成によって、秩序の共有化を一挙に実現した点に特徴がある。地域ごとの在地領主のあり方の違いは、大名権力による編成 の進展の段階差ではなく、地域の政治的・軍事的状況に規定された多様性と考えるべきである。
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