本稿では戦時期に経済的な必要から労働せざるを得なかった既婚女性労働者が,動員政策の中でいかに位置づけられ,子育てにおいて,労働現場において,いかなる問題を抱え,その問題はいかに扱われたのかについて考察する。 戦時期に政府は,経済的理由により動員政策以前から賃金労働をしていた既婚女性を,あえて法律や勅令に明記せずとも働く労働力として意識していた。戦局が悪化する中で,本来は働く必要のない階層の未婚女性を動員するために政府は特別な配慮をした。そのために職場で
女子挺身隊
と一般女子工員との軋轢が生じると,軋轢を解消するために両者の待遇の差の是正が行われ,未婚女性同士の労働条件は均衡した可能性がある。しかし政府は経済的理由から働く既婚女性に対しては,特別な配慮をしなくても働くものと期待し,既婚女性の就業継続のための労働環境の改善を行うことはなかった。
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