1.研究の目的
福島原発事故以降,放射能汚染や原発にどのように向き合っていくのかが,問われている。中学校家庭科の教材である「魚」については,放射能汚染の影響が心配されている。そこで,本研究では「魚」を取り上げ,子どもとこの問題をどのように考えていけるのか,検討することにした。
第一報では,子どもの不安や疑問に応えるべく,授業で調査・検討する内容を子どもと一緒に明らかにし,できるだけ子ども自身による調査と,全体での対話・討論を重視し,各自の見方や判断を大切にして,授業を行った結果を報告した。
第二報では,当時子どもたちは,放射能汚染を学ぶことをどう思っていたのか,一年後にどのように捉えているのかを検討するために,インタビューを実施した。その結果から,家庭科で放射能汚染の問題をどのように学ぶことができるのかを検討する。
2.方法
研究対象は,中学校1年生の家庭科単元「日本の魚食」の授業(全20時間)である。実施時期は,2012年9月10日~11月8日。インタビュー調査の実施は,2013年2月14,20,21日である。インタビュー方法は,半構造化質問によるグループ・インタビューを基本とした。インタビューイーは,23名で5グループに分けた。インタビューは,山田綾が実施した。
3.結果
第一報で報告した単元の展開は,以下である。マイワシの手開き(冷凍保存)と資料「魚と長寿と日本人」の提示→個人追究→魚の栄養・健康増進効果,種類,伝統的調理方法の発表と検討→個人追究→「魚離れ」の原因の検討(消費者の問題,漁獲量の減少と買い負け,東日本大震災・放射能汚染)→原因に対する提言づくりと交流→提言を活かした「魚の調理実習」→まとめの作成。 食品中の放射性物質の基準値については,ICRPモデル,閾値モデル,ECRRモデルの考え方について議論した。
実践の一年後に,インタビューを実施した。インタビューのグループ分けは,「魚離れ」の原因の検討のところで,「東日本大震災・放射能汚染」が原因であると考えて追究し,提言を作成したグループのメンバーと,それ以外の原因を追及したグループのメンバーを分け,さらに男女別に実施した。
インタビュー調査の結果において注目すべき点は,以下である。 第一に,放射能汚染の問題について,授業を通して,子どもたちはどのように捉えていたのか。放射能汚染の問題に初めから関心を持ち,あるいはクラスメートの意見を聞いて関心を持ち,この問題を追及し,提言をまとめた子どもは,「放射能汚染の問題は難しく,みんなにうまく伝えられなかった」,「分かってもらえなかった」と捉えていた。他方で,はじめは放射能汚染に関心を持っていなかった子どもたちは,授業でクラスメイトの追究を聞き,放射能の問題が大事なことだと知り,今もそのように捉えていた。lifewkork(個人テーマ学習)で,放射能汚染の問題を追究している子どももいた。また,子どもは,基準値はどれが正しいとはいえず,専門家の意見が分かれているからこそ,自分の見解をもつべきだと考えていた。第二に,子どもは放射能汚染の問題について細かい内容は忘れていたが,授業を通して,家庭科授業のあり方や,生活の捉え方については確かな考えを獲得していた。生活から見つけた問題を自分たちで追究し,背後にある社会の問題について議論していくべきだと考えていた。主な課題の一つは,どの子も放射能汚染は問題であり,意識して生活することが必要と考えながら,内部被曝と外部被曝,低線量被曝と高線量被曝,放射線の細胞への影響などについて十分に理解できていない点である。
抄録全体を表示