本稿は,方法としてのオーラルヒストリーを理論的に考察し,オーラルヒストリーの利用が労働史において新しい研究成果を生み出す可能性について検討した。オーラルヒストリーは,労働史に限らず,歴史研究や制度研究において新しい手法として注目されている。歴史研究の中で過度の文書中心主義が批判され,口述資料の役割が再評価されたことがオーラルヒストリーへの注目のはじまりであった。しかし,オーラルヒストリーは文書資料との対比で語られてしまうので,かえって考察の範囲が限定されていた。本稿では,量的調査を含めた社会調査論全体の中にオーラルヒストリーを位置づけ,様々な調査資料の入手情報の質と量を検討した。検討の結果オーラルヒストリーは文脈的情報への注目という点を介して多様な資料群の読解可能性を拡大させていることを確認した。さらに,オーラルヒストリー研究が労働史研究の潜在的な可能性を顕在化させることについて指摘した。
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