我々は,重症三尖弁閉鎖不全症を伴った特発性右房拡張症の1例を経験したので報告する.症例は67歳の男性で,息切れ,両下腿浮腫,体重増加の右心不全症状が出現し当科入院となった.入院時,NYHA分類のclass3であり,胸骨左縁にLevine III/VIの収縮早期雑音が聴取された.胸部X線写真にて右第2弓の突出を認めた.経食道心エコー,心臓カテーテル検査の結果,重症三尖弁逆流,中等度僧帽弁逆流と著明な右房の拡大を認めたが,右室,左心系の拡大は認めなかった.三尖弁には石灰化や腱索断裂などの器質的病変を認めなかった.右房圧が正常であり,右室の拡大を認めず,また組織所見も二次性の右房拡張は否定的であった.これらの理由より,本症例における三尖弁閉鎖不全は特発性右房拡張症による弁輪拡大のためと考えた.本症例に対しCarpentier's ring.を用いた三尖弁形成術を施行したところ,術後症状の改善が認められNYHA分類のclass1となった.
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