本報告は、神奈川県相模原市の地域資源として工芸品の調査を行ったものである。調査期間は2007年11月12月で、調査地域は合併後の相模原市全域で、特に、津久井、城山、藤野、相模湖地域を重点的に調査した。調査方法は、文献調査および相模原市立博物館学芸員への聞き取り調査、および現地での聞き取り調査である。
調査の結果、(1)国指定の伝統的工芸品や歴史的な工芸品は存在しない。工芸に関する産業としては、繊維産業のひとつとして津久井に組紐がある。(2)畑作中心地域で、近世中期から養蚕がはじまった。このため、(3)養蚕に関連した産業として、<屑糸の利用><炭焼き><製紐業>が起こった。(4)もともと、相模原の奥地の山林は江戸幕府の天領(保護林)だったため林業があった。現在、藤野町、津久井町には現在も製材所があるほか、木工家具の工場や、下請けで木工玩具などを作っている人がおり、木工が盛んである。(5)近年、住民活動としての新しい工芸品づくりが起こっている。(6)その一方で、「おみきの口」など祭礼用の工芸品は作る人がなくなり、入手したくてもできなくなっている。
まとめると、相模原市の工芸品の文化的背景は、八王子に撚糸を供給した「養蚕・絹」と、中央本線沿いの湖畔エリアの「手工芸」、丹沢山の森林資源を利用した「木工品」があることがわかった。
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