変容するメディア環境の中で、従来の放送事業に対しその公共性を問う声が高まり、制度設計の見直しにおいても、社会資本として維持する意義のある放送の社会的役割の見定めが求められている。本稿では、2020 年春のコロナ禍の一斉休校時に、地上波民放テレビの県域独立局が放送した教育支援番組という公共性の高い取り組みを観察対象に、テレビ局側へのアンケートとヒアリングに加え、視聴者アンケートも実施してその実態の解明を試みた。ほとんどの局がコロナ禍を災害と同等にとらえ、地域貢献の使命感と社会的役割の遂行意思から支援番組を制作・放送したが、視聴者の認知度は低く、十分な効果を発揮したとはいえなかった。また支援番組の内容は局によって相当なばらつきがあり、教育の公平性の観点からは疑問が残った。他方で、支援番組を放送することには視聴者の過半数が賛同したうえ、視聴頻度は高くないにもかかわらず、独立局の経営を公的資金で支えることに抵抗感のない人がある人を上回った。社会資本としての独立局の存在への潜在的期待とも解釈でき、事業者側にもそれに応えるべくサブチャンネル1を活用した試みも始まっている。本稿では、公共に資することに特化する「パブリック・サービス・メディア」を指向する道筋もあるのではないかと提言する。
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