福島県富岡町および大熊町は福島第一原発の南西部に位置し,原発事故の際は放射性物質により広範囲の地域が汚染され,住民の避難が余儀なくされた。帰宅困難地域が解除された地域の農地は除染され,農業復興が進みつつあるが課題は多い。除染後農地には窒素肥沃度が低い山土(山砂)が客土されている場合が多く,地力低下による生産性の低下が懸念されており,堆肥や緑肥などによる地力回復が提案さている。本報告では,当該地域において緑肥作物導入の効果について検討した結果を紹介し,緑肥作物普及の現状と問題点を解説する。緑肥作物には様々な種類があるが,本研究では主にマメ科緑肥作物の導入について検討した。各種マメ科緑肥の栽培試験を実施した結果,窒素集積量は8~30 ㎏-N/10aとなり,とくにヘアリーベッチは窒素集積量が多く,土壌窒素肥沃度回復には効果的であることが明らかとなった。また,ペルシアンクローバは,比較的過湿による影響を受けにくい品目であり,現地圃場においても過湿条件下における生育減退が起こりにくいことが実証された。 緑肥植栽後の作物栽培においては,水稲は無施肥でも目標収量を達成することができ,ソバにおいては緑肥による窒素鋤き込み量とソバの収量には正の相関があることが確認された。一方で,現地では農地の除染が進んでいるが,営農再開の見込みが不透明な農地が多く,保全管理をしながら農地を維持する必要がある。そのような農地においても地力回復をしながら管理することが重要であり,状況に応じた緑肥作物の栽培体系の構築が求められている。その一つの手段として,マメ科緑肥等を栽培しながら採蜜(養蜂)をする技術が検討されており,農作物の作付けが難しい農地においても地力回復をしつつ収益を上げながら省力的な農地管理ができる技術になると期待されている。現地の営農場面において緑肥の導入はあまり進んでおらず,試験的な緑肥の栽培のみが行われているのが現状である。営農再開している農地面積が増えていないこともあるが,地力回復の重要性や緑肥の利用方法が生産者に伝わっていないように感じている。富岡町,大熊町の自治体は営農再開には地力回復が課題であることを認識しているし,営農再開面積が増えてくれば緑肥の導入が進むと予想されるので,今後は生産者に向けた情報発信が重要になる。
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