日本の古典美術では、文字を絵画や工芸といった他の表現技法と混在させる、あるいは並列的に用いる方法がしばしばみられる。このように文字が柔軟に利用される様態を筆者は「拡張的な文字」と位置づけ、その一例として、江戸時代の染織図案集「小袖模様雛形本」に収録された文字模様に注目した。雛形本における文字の用法は、文字以外のモチーフとの柔軟な組み合わせや、大胆な変形による図案への適応といった特徴を持つ。当研究ではこれらの文字模様図案の独自性を、図案全体をひとつの平面作品としてとらえながらグラフィックデザイン論の観点で分析および分類を行うことで、「拡張的な文字」の効果について考察した。
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