『學乃杖(まなびのつえ)』は,広島県北東部に位置する東城(とうじょう)尋常高等小学校の高等科を大正2(1913)年3月に卒業した生徒が,同級生の絵や書を集めて作成した作品綴で,回覧雑誌の性格を持つ。その内容は,輸入洋紙に描かれた水彩画・鉛筆画・色鉛筆画と,和紙に描かれた作文・和歌や書画に大別できる。本稿では,国定教科書『新定画帖』の模写だけでなく,娯楽雑誌の挿絵や戯画などの模写,身近な対象の写生や生活に密着した表現が混在する作品群を,東城町の地域性を踏まえて分析した。その結果,当時この地方の子どもたちには江戸時代の伝統的な書画に親しむ価値観が残されていた一方で,最新の視覚文化との接点もあり,創作活動が楽しまれていたことが確認された。
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