日本には百年以上の寿命を維持する企業が2万社以上もある.多くはファミリービジネスだといわれている.一般に,同族経営は三代で潰れると言われる.それなのに,何故これらの企業は永年に亘って安定経営を続けられたのか,A社の事例を用い,知識資源管理の視点から考察を試みた.組織のライフサイクルが長く,安定した事業運営を継続している日本の長寿企業には独特の工夫があることがわかった.これらの企業では,先進的IT投資がなされており,競争に強く,環境の変化に順応できている.安定した賃金を得られるため,勤務する社員の幸せ感が強い.情報の有効活用企業であるため経営安定度は高く,物の効率活用面でも優れている.知識資源管理が差別化を促進している.人物金の管理のみでは情報化社会を勝ち抜けない.組織に分厚く蓄積する知識の資源的活用面での経営の工夫が顕著である.特に,口伝と言われる形式知一歩手前の暗黙知の活用が秘訣である.先代から受け継いだ経営の要諦を口伝にて,社員にストーリイテリングしているのである.
日本の長寿企業からこの秘訣を学び,進化的変革を達成しつつ持続的経営を実現するために知識資源管理をトップ主導で導入することを勧める.
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