本研究は,東山魁夷の代表作,唐招提寺障壁画を題材として扱った村上通哉の実践に着目した。言語活動を媒介とし作家の文章,直筆,絵画に描かれた実景を介在させた鑑賞活動の実際を明らかにした。次いでそれらの詳細から生徒達が「心が吸い込まれるような」深い鑑賞体験を成立させた構造について,浜田寿美男の論「身体と表象の間で交わされる本質的な対話性」を軸に,考察を行った。結果,①作家の文章や直筆,絵画を感じ取り自らの思いを伝え合う対話構造,②作家と自身の視点を重ね合わせ追体験する対話構造,③作家の直接的な身体性が鑑賞者側に浸透する対話構造,④多様な視点の移動と重層化の過程で,対象と同化していった自己を省察する心象性が敷き写される対話構造が確認できた。これらの構造が重なることにより,東山絵画を貫く主題と深く結びついた本質的理解に迫る鑑賞構造が成立したと考えられる。
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