上海市を事例にして,中国の歴史的な民族衣装である漢服の復興と活動状況について検討しながら,漢服着用者たちの活動空間がどのように形成されているのか明らかにした。漢服は2003年から本格的な復興活動が始まった民族衣装である。そのため,正式なデザインや着用作法等が不明になっている面もある。そのため調査対象となった着用者では,「真正」な漢服の着用のあり方を追求している人もいる一方で,愛好歴が短い若い世代の人が多いこともあり,正式な形式や作法にこだわらない自由な着用方法やアレンジを許容する人が多くみられる。漢服の着用をめぐっては,歴史的装束としての「真正性」を追求することと民族衣装を「普及」させたいという2つの目標を両立することが課題になる中で,調査対象者である漢服着用者間でも,着用する漢服のデザインや着用方法をめぐって意識の違いがある。復興されて間もない民族衣装であるという漢服の特徴は,着用者の活動空間のあり方にも反映されている。つまり活動空間としては,一般の人々から奇異な目で見られることが少なく,漢服を着用するにふさわしいとみなされる歴史的な観光地等が選択される傾向がある。このような活動空間の分析からは,活動空間に制約があり,歴史的観光地等においての着用が中心になっている一方で,漢服着用者の存在が観光地のイメージ形成や観光客の誘致に一定の役割を果たしている可能性もあるといえる。
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