【目的】末梢静脈栄養(PPN)において最も頻度が高く問題となる副作用は静脈炎であり、PPN輸液の酸性度は静脈炎の重要な危険因子の一つである。静脈炎のリスクを最小化するために、ほとんどの日本のPPN輸液は酸性の要因を無くした製剤となっているのに対し、ほとんどのヨーロッパのPPN輸液は酸性の製剤となっている。本研究は、これら酸性度の違いがPPN輸液の静脈炎惹起能に反映することを明らかにするために実施した。
【方法】試験輸液として、日本のPPN輸液であるAF(pH6.56)と2つのヨーロッパのPPN輸液であるE2-in-1(pH5.88)及びE3-in-1(pH5.54)を用いた。さらに、脂肪を含有しない製剤であるAF及びE2-in-1のカロリー及び浸透圧を脂肪含有製剤であるE3-in-1と合わせるために、AFとE2-in-1に1/10容量の20%脂肪乳剤を加えた液(AF+L、E2+L)も調製した。それぞれの輸液を、8匹のウサギの耳介静脈内に10 mL/kg/hrの速度で8時間投与した。投与終了の24時間後に投与静脈を採取し、病理組織学的に検査した。「静脈内皮細胞の消失」、「炎症性細胞の滲出」などの静脈炎の所見について0(異常なし)から3(重度の変化)までにグレード付けし、それぞれの所見のグレードについてWilcoxon rank sum testを用いて検定した。
【結果】E2-in-1、E2+L及びE3-in-1は軽度から中等度の静脈炎変化を引き起こしたが、AF及びAF+Lはほとんど起こさなかった。3つの市販製剤の比較では、AFの静脈炎惹起能はE2-in-1及びE3-in-1に比し有意に低かった。3つの脂肪含有輸液の比較では、AF+LはE2+L及びE3-in-1に比し有意に低かった。
【結論】これらの結果から、PPN輸液の酸性度はその静脈炎惹起能に反映することが示唆され、生理的なpHのPPN輸液は末梢静脈投与に有利であると考えられた。
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