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クエリ検索: "心は孤独な狩人"
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  • 地域活性化におけるマルチパースペクティブな語りの可能性
    *原 真志
    日本地理学会発表要旨集
    2022年 2022s 巻 336
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/03/28
    会議録・要旨集 フリー

    1.はじめに

     1950年に公開され翌年のベネチア映画祭で金獅子賞を獲得した黒澤明監督の映画『羅生門』では,複数の登場人物がある出来事をめぐって異なる語りをし,映画の原作となった芥川龍之介の短編小説のタイトル通り真実は『藪の中』という状況が描かれている.本研究ではこうした状況を「羅生門的世界」と定式化し,地理学研究への応用の可能性を探ることを目的とする.

    2.映画と文学における複数視点のナラティブ(語り)

     語りに関する詳細な問題提起がジュネットによってなされ,映画『羅生門』が例として取り上げられている(Genette, 1972; 橋本, 2017).その後も複数の登場人物が語る映画として『羅生門』は典型的な研究対象となっている(青柳, 2006; 石浜, 2007; 窪田, 2016). また『パルプフィクション』,『イングロリアス・バスターズ』などQ.タランチーノ監督の作品も複数視点の語りとして有名であり(DeGenaro, 1997; Berg, 2006; Desser, 2016),直近では2022年に公開したリドリー・スコット監督の『最後の決闘裁判』がある.複数視点の語りの文学作品としては,19世紀女性フランス文学で1833年に出版されたジョルジュ・サンドの『レリア』(西尾,2002; 西尾,2018),カーソン・マッカラーズによる1940年出版の『

    心は孤独な狩人
    』(Zhang, 2020),アガサ・クリスティーによるポワロシリーズの一つで1942年出版の『五匹の子豚』(Nayebpour, 2018),1966年出版で米国ポストモダン文学の代表例と言われるデヴィッド・フォスター・ウォレスの『Infinite Jest』が分析されている(Wallace, 2012).Koss(2009)はヤングアダルトノベルの様々な例を整理している.

    3.羅生門的手法とマルチパースペクティビティの応用研究    

     映画『羅生門』は国内外の注目を集め,ルイスはその視点を家族構成員各々が語るライフヒストリーに応用し,羅生門的手法と名づけた(Lewis, 1961; 小林, 1994).その他、羅生門的現実(野村, 1999; 高井, 2009),羅生門効果 (Davis et al., 2015; Anderson, 2016; Levin et al., 2020; 今野,2018)等の言葉が生まれ,セラピー(野村, 1999),トランスジェンダーのライフヒストリー(荘島, 2008), 建設技能労働者の技能獲得(中川・山 崎)など,様々な領域で応用研究が行われている. 「羅生門的世界」はマルチパースペクティビティの問題と理解することができる(Hartner, 2014).マルチパースペクティビティは,多様性イノベーション(Weber, 2014), キャリア研究(Gunz & Mayrhofer, 2015), 歴史教育に応用した研究がなされている (Stradling, 2003; McCully, 2012; Wansink et al., Kropman et al., 2021; Kello, 2016; 中村,2019).

    4.地理学と地域活性化における応用  

     近年,地理学においてナラティブに対する関心が高まってきている(Ryan et al., 2016; Verloo, 2018; Laskin, 2021).また地理教育においてマルチパースペクティビティが応用されつつある(Vasiljuk et al., 2021; 山本, 2013). 地域活性化においては民間企業,行政,NPO,住民など地域内外の多様な主体が関係し,「羅生門的世界」が発生して問題解決を困難にしている場面が多々あると考えられる.問題をどの空間スケールで考えるかの違いも「羅生門的世界」の発生要因となりうる.伝統的な地誌や地理学的総合で用いられた客観次元の多面的把握とは異なり(秋本, 2012; 岩田, 1994),問題を取り巻く状況の認識の違いを多様な視点からの語りに注目する多次元認知次元の分析が重要であり,さらに「羅生門的世界」の発生を多様な主体が認識した上でどのように対応すべきかを考えるように促すことが,地域活性化の問題解決の糸口になるのではないだろうか.

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