贈与と交換の視点を教育学に導入したのは、矢野智司氏の大きな貢献であろう。これによって、氏のいう「生成としての教育」の位置づけが明確になっただけではない。教育という営みを成立させてきたと考えられるにもかかわらず、いわゆる近代教育において看過されてきた贈与が見出されたことの意味は大きい。また、国民教育を駆動してきたのが「贈与の物語」であったと指摘しているように、氏は贈与の視点のリスクにも自覚的である。氏の国民教育批判は教育関係論批判にまで及ぶ。これらの貢献を踏まえた上で、本稿は、「限界への教育学」のアクチュアリティーをめぐって、ヤン・パトチカのコメニウス研究をとりあげつつ、(1)文学をとりあげる「限界への教育学」の方法論、(2)「生成としての教育」と「発達としての教育」との関係、(3)「限界への教育学」によるナショナリズム相対化の可能性について批判的に言及する。
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