密教とともに日本へ伝わった曼荼羅は, その構図がきわめて幾何学的で, 直線と円とで画面を分割し, その間に諸仏の尊像を系統的に集合体として描いたもので, 日本の仏画の中で独自の分野をなしている。密教寺院では通常掛曼荼羅として胎蔵界, 金剛界の両界曼荼羅を, 修法壇の左右に相対するようにかかげるのであるが, それとは別に, 修法壇上に水平におく敷曼荼羅がある。これを平面図とみれば, 本来曼荼羅は三次元的な仏教的世界をあらわしているのではないかと思われる。ジャワ島のボロブドゥルは, 巨大な立体曼荼羅であるといわれているけれども, その形状はむしろインド, サンチーの原初的なストゥーパの形に似て, 宇宙にまで広く視野を拡げた密教的世界観にはそぐわないようにみえる。ストゥーパは, 北方仏教の流れによって日本に伝わり五重塔となったが, 南方仏教に伝えられたストゥーパは, ベル形となり, さらにそれが変化し, 整理されて, 喇叺状の曲面 (負の曲率曲面) に包絡されるようにもなる。そのような曲面に沿うように, 曼荼羅を平面図として立ち上らせてみると, 仏教的世界の中心をなす須弥山の模型図となりその上空の諸仏の住む空間が感じとれるように思われる。きわめて恣意的ではあるが, 曼荼羅を平面図として図学的に密教的世界観を具現してみた, 一つの試みである。
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