ハチ目には,単独性から社会性までの異なる社会性段階の種や,植食性,寄生性,営巣性などの多様な行動を示す種が存在する。これらの行動は系統分岐に従って段階的に獲得されてきたと考えられており,ハチ目昆虫は行動進化と関連する脳基盤を比較解析により探索する上で有用な系統である。ハチ目昆虫の行動や脳の組織学的な研究は古くから行われており,脳の大きさや構造といった形態の種間比較により行動と関連する脳基盤が探索されてきた。一方,近年のシングルセル解析の興隆により,社会性ハチ目において脳を構成する細胞種の網羅的な同定や,分業に応じて構成や遺伝子発現が変化する細胞種の解析が行われ,細胞種レベルでの種間差異の探索が可能になってきている。また,複数のハチ目昆虫種で遺伝子改変法が確立され,遺伝子や神経細胞の行動制御における機能解析も可能になりつつある。本稿では,まずハチ目昆虫の系統と行動について概観する。次に,ハチ目昆虫種間の脳の比較解析によって明らかになった行動進化と関連する脳基盤について,筆者らの最近の研究例も交えて解説する。さらに,種間差異が見つかった脳基盤の行動制御における機能を調べる上で重要な遺伝子改変技術について,ハチ目昆虫の現状を技術的な側面に触れつつ紹介する。
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