前近代には多様な
暦注
が暦に記され、人々の生活に影響を及ぼしていた。とりわけ近世には数多の
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解説書が出版され、人々の暦にかかわる知識を形成する基盤となった。
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解説書出版の展開を明らかにすることは、近世の暦認識を考える上で重要である。本稿では、
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解説書出版の概観を示し、2つの転換期を指摘した。第一に、貞享改暦(1685年施行)である。17世紀前半に
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解説を担っていた仏教者たちは、この時期から徐々に存在感を弱めていく。第二に、1800年前後である。
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解説書出版は18世紀に隆盛を迎えるが、19世紀に入ると新規の開板は減少していく。本稿では両時期を代表する
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解説書として『頭書長暦』(1688)と『暦略註』(1800)を取り上げ、次のことを明らかにした。①貞享改暦を機に、実際の暦と合致しているか否かが
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解説書における重要な価値基準となった。②その結果、実際の暦と合致しない仏教者による
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解説書は衰退していった。③19世紀には暦占の影響力の相対的低下や
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解説書の飽和により、新規の開板が減少した。④その中で、暦に基づく天候予測や凶事の回避方法などの情報を盛り込んで社会の需要に応えた
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解説書は、人気を維持することができた。
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