中国で生まれた製紙技術が,5世紀頃に中央アジア,9世紀にイラク,さらに,シリア,エジプトから北アフリカを経由して,11世紀にイベリヤ半島に伝わる。この間,羊皮紙(強靭で使いやすいが,高価)やパピルス(長い使用の歴史を持つ)と競合しながら,毛筆の中国仕様から,ペン書き向けの仕様(表面をひっかく)を開発することで市場を獲得した。
原料面では,中国の大麻(ぼろ)と楮が,シリアに達すると織物(リネン)として使用された亜麻のぼろに変わる。以後,これがイスラム,次いでヨーロッパの主要な原料となった。その途中の中央アジアでは,主要作物であった木綿のぼろも使われていたようである。
イスラムの紙は,15世紀頃には,イランを中心にイスラム文化の爛熟期を支えた(その一つがcalligraphy)。その特徴は,入手できる亜麻のぼろ(易叩解性)を十分に叩解して,シートを形成し,炭酸カルシウムと澱粉からなる塗料を塗り重ね,ペン書きに耐える表面にする。
しかし,イスラムの製紙産業は,技術を伝えたヨーロッパからの輸入品(品質は劣るが,安い)に市場を奪われ消滅した。
イスラムからヨーロッパに伝わった製紙技術は,コストダウンの工夫を積み重ねて,産業革命により近代的な製紙産業に発展した。
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