本研究では重度・重複障害児を対象とした教育実践論文を概観し、①対象児の実態把握の際に使用しているツールの有無とその名称を明らかにするとともに、②ツールと指導目標設定の方法との関係の整理を通してツールを使用することの課題と可能性を考察した。実態把握において心理検査や発達段階に基づくチェックリスト、対象児の情報の整理・共有のためのツール、各学校で独自に作成したツールを使用している教育実践がみられその有用性が挙げられた。一方ツールと各教育実践における指導目標設定の理由を照らし合わせた結果、ツールの種類によって指導目標設定の理由が異なる傾向が示され、教育実践論文の記述内容からツールには子供をみる教員の視点を限定する危険性があることが示唆された。この危険を避けツールを有用なものとするためには、各学校がツールの特性を理解し、「個別の指導計画」作成のサイクルにおける位置づけを明確にすることが重要である。
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