本論では,子どもの体験における「空間」に着目し,印象的な風景との出会いや造形場面における空間の感じられ方が,主体意識としての<わたし>を支える可能性について検討した。論中では,まず人が肯定的に捉えた体験が自己構造と一致するというC.ロジャーズの理論をふまえて,体験の記憶に伴われる空間のパースペクティブ性が,体験を肯定的に捉えていくうえで重要であると仮定する。そして壮大な風景の中で驚きを感じる体験や,絵の具遊びを行う子どもの体験を取り上げながら,人が印象的な空間体験を通して自分の物語を表現し,生きようとする存在であることを説明する。これをふまえて,子どもが冒険や失敗をする過程において,風景の包容性と作業空間の共同性が体験を肯定するための支えとして機能し,その記憶がさらなる課題の局面において<わたし>を支える根拠となるであろうと考察する。
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