研究目的
調理実習は家庭科で多く取り組まれているが、教師自身が毎回の調理実習を評価し、振り返る機会は少ない。筆者らは、これまで調理実習の指導方法を相互に振り返ることを通し、教師自身が調理実習を評価する方法についての検討を継続して行ってきた。
具体的には、教師自身の調理実習に対する考えや目標について、実践事例をもとにデータ化し、調理実習は大・小2つの層で示される目標を設定して行っていると明らかにした。さらに、4名のメンバーの調理実習を分析的に評価した。その結果、メンバー各自が「調理実習中の失敗の捉え方」「調理手順の示し方」について他者と比較し、自身の調理実習スタイルを自覚することができた。
そこで今回は、個々の教師が調理実習を評価する際の1)評価の視点を明らかにすること、そして、授業評価に有用と思われる2)ワークシート(記録用紙)について検討することを目的とする。
研究方法
1)評価の視点の明確化
1.メンバー12名がこれまでの調理実習に関する議論を通して、自身の調理実習を評価する際に何を根拠とするかについて記述する。2.記述内容から評価の視点を抽出し、データ化する。3.データを分類し、カテゴリーを作成する。4.メンバー全員で議論・考察し、評価の視点を明らかにする。
2)ワークシート(記録用紙)の検討
・市販の調理実習記録ノートを収集し、記述項目について検討する。
・メンバー各自が作成・使用しているワークシート(記録用紙)の特徴、長所・短所について考察する。
結果と考察
(1)調理実習を教師自身が評価する視点(概要)
メンバーの記述を分析したところ、調理実習を教師自身が評価する視点として大きく2つのカテゴリーが生成された。
1つは、「客観的なチェック項目」である。具体的には「時間」(実習が時間内に終わること他)、「後片付け」(後片付けがきちんとされているか他)、「安全」(安全に気をつけることができたか他)、「作業(生徒間)」(生徒が偏ることなく動ける他)、「提出物」(反省・感想が十分な長さで書かれているか)、「試験」(事前事後の授業と実習についての試験他)があげられた。
そしてもう1つは教師の「振り返りを必要とする項目」である。これは「生徒の取り組みの様子」(大きな失敗がなく、意欲的に取り組めたか他)、「生徒との関係性」(生徒とのやりとりが上手くいった他)、「提出物」(生徒の提出物を使って評価する他)、「日常生活とのかかわり・応用」(実習題材が幅広く応用が利くものであること他)、「実習内容と授業とのかかわり」(事前事後の授業とのつながりがあるか他)、「他教師の評価」(附属高の教師の評価)、「発見」(生徒に「新たな発見―疑問も含む」をもたらす)であった。
(2)教師の考える「調理実習の目標」と評価(授業評価)の関連
教師自身の調理実習に対する考え方や、目標とすることを明確にすることが、調理実習という授業を評価していくことにつながる。つまり、単なるチェック項目としての評価規準だけではなく、調理実習の実践を一つ一つ省察する行為が必要なのである。
市販の調理実習記録ノートを見ると、生徒に幅広い記述を求める傾向にあり、具体的に何を評価の基準としたいのかが見えにくいという現状がある。そこで今後は、教師自身の調理実習の目標や調理実習に対する考え方の中で、記録用紙(ワークシート)がどのように位置付けられるのかを明らかにしていく必要があろう。
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