西南日本内帯に属する岡山県南部-香川県地域の白亜紀後期花崗岩類(山陽帯, 25試料;領家帯, 16試料)の主成分・微量成分について分析し, 両地帯の特性を明らかにした. また斑れい岩(6試料)の役割についても言及した. これら深成岩類を領家変成岩類とタングステン鉱床の分布域から, 山陽帯と領家帯に地帯区分する. 山陽帯花崗岩類は粗粒~中粒花崗閃緑岩-花崗岩バソリス, および細粒花崗閃緑岩~花崗岩ストックからなり, ごく少量の斑れい岩類を伴う. 細粒花崗岩の一部は白雲母-黒雲母優白花崗岩で, タングステン鉱床を伴っている. 領家花崗岩類は同様に, 粗粒~中粒花崗閃緑岩-花崗岩バソリスそして細粒花崗岩ストック(庵治花崗岩)からなり, 頻繁に細粒斑れい岩類を伴う. また片麻状構造や鏡下での鉱物の変形から固結時の偏圧の影響が推察される. 庵治花崗岩はストック状ではあるが, 鉱床を伴わない. 山陽帯と領家帯の花崗岩類を, バソリス状粗粒岩類, ストック状細粒岩類に分けて比較すると, 次のような特徴がある. 山陽帯花崗岩類は領家帯花崗岩類に比べてシリカとアルカリ( 特にK 2O)に富み, アルミナに乏しく, アルミナ飽和指数が低い,Rbは山陽帯花崗岩類に多く含まれ、特に細粒優白花崗岩で著しく高く, 領家帯の庵治花崗岩で最も低い. SrはRbと全く逆の傾向を示し, 従って Rb/Srは優白花崗岩で最も高く(~39), 庵治花崗岩で最も低い(0.2). Rb/Srはマグマ分化度を示すから, 庵治花崗岩は未分化の, 優白花崗岩は著しく分化したマグマから固結したものと考えられる. この分化花崗岩はY, W,Sn, U, Th, Ta, Nbにも富んでおり, その一部は花崗岩の周辺に鉱床を形成した. コンドライトで規格化した希土類元素パターンは(1) 軽希土類で中間的な値を持ち, Euから重希土類にかけて低下するもの:山陽帯の花崗閃緑岩や領家帯の花崗岩類で一般的, (2) 上記より全般的に希土類に富み, 若干のEu負異常を持つもの:桃色の万成花崗岩で代表される, (3)重希土類に富み, 全体的に水平パターンを示し, 斜長石の分別晶出による著しいEu 負異常を示すもの:これはタングステン鉱化を伴なう優白花崗岩類で特徴的である. 庵治花崗岩類は領家帯では最末期花崗岩と考えられているが, このような分化パターンを示さない. 領家帯花崗岩類は山陽帯花崗岩類よりアルミナ飽和指数が高く, アルカリ含有量が低いから, その原岩の堆積岩の比率が高い可能性があり, 酸素同位体データ(Ishihara and Matsuhisa, 2002)はそれを裏づけている. 庵治花崗岩や片麻岩中の白雲母-黒雲母花崗岩のδ
18O値は特に高く, その原岩に堆積岩比率が高かったことを示すが, K2O含有量は低くイライトに富む頁岩が少なかった可能性がある. 山陽帯と領家帯花崗岩類の平均的組成は領家帯でやや苦鉄質である. 苦鉄質岩は細粒斑れい岩類として領家帯にしばしば産出し, 花崗岩質マグマとの間における幅広い深度の混交・混合組織を示す. 従って領家帯では上部マントルからの苦鉄質マグマの上昇量が多く, それが広域変成帯を生じる熱を供給し, 更に大陸地殻の火成・堆積岩起源の珪長質マグマと混交・混合することにより, 山陽帯よりやや苦鉄質な花崗岩類を形成したものと考えられる.
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