本研究の目的は, 作動記憶容量と既有知識とが幼児の文章理解に及ぼす影響を検討することであった。リスニングスパンテストの結果から, 年長児 (56歳児) を作動記憶-大/小群に分けた。リスニング理解のレベルは文章検証課題を用いて査定した。実験1では知識活用が可能な状況での文章理解を検討するため, 作動記憶-大/小群に対して日常的スクリブトを含む課題文と含まない課題文とを呈示した。その結果, スクリプトなし案件では高次レベルでの理解を査定する質問文で作動記億大群の成績の方が高く, 一方, スクリプトあり条件ではその差が減少した。作動記憶大群の方がより深い理解に至りやすく, また作動記憶-小群の理解を助けるスクリプトの役割が示唆された。実験2では知識活用が比較的困難な状況での支章理解を検討した。作動記憶大/小群に対して, 新奇情報を含む課題支と, 同じ課題文をランダムに並べ替えたものとを呈示した結果, 作動記億容量の影響のみが認められた。課題文で用いた4種類のトピックの既知度に差が認められたため, 推論問題の得点人数についてトピック毎に分析を行った。その結果, 既知度の高いトピックであれぱ, 作動記憶-小群も作動記憶-大群と同程度の理解に至っていた。以上の結果から, 文章理解を説明する構成概念である作動記憶と知識との問に, 知識の活用しやすさが作動記憶でのテキスト処理の効率性を高めるという関連性が示唆された。
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