東京停車場本屋は、その設計では、やはり、工学者・テクニクラートとして位人臣を極めた土木界の大御所・古市公威と因縁がある。/ひとつは鉄道当局の意表をついた高架駅の提言であり、もう1件は辰野金吾がいいたくなさそうな設計委嘱のことだ。
停車場予定地内の北側は軍用地だったので、陸軍省が丸の内の所属地を一括して払下げようときめたとき、当地も含まれてしまう。/この市区改正委員会の審議で鉄道当局が面積の不足に対し、異議をとなえる状況のなか、古市は代案として本屋を高架駅にするよう具体的な事例をあげる。/そのため、鉄道当局の東京停車場構想は一頓挫をきたす。-この構想とは、芳川顕正東京府知事兼内務少輔のもとで原口要工部少技長兼府御用掛が市区取調委員長としてまとめたもの。それは丸の内に皇室駅の性格と中央駅の機能をあわせもった本屋を皇居に向けて建てようという計画だ。
市街高架線の計画が緒についた際、日本鉄道会社の顧問技師・ルムシュッテルらによる本屋構想は、古市が提案したとおりにベルリンのフリードリヒ・ストラッセ停車場をモデルとした高架駅だった。/しかも、その後、野村竜太郎逓信技師の欧米視察報告でも高架駅を推している。/けれど、鉄道当局では所期の目的を貫徹するため、膨大な官設既成鉄道改良賢という名目で帝国会議の協賛をえて三菱から用地を買戻し, 帝都思想を顕現した豪壮な本屋をつくることになる。
逓信省工務顧問・バルツェルが帰国した年の歳末、本屋の設計を委嘱されたのが辰野。この時期、鉄道当局のトップ=逓信省鉄道作業局長官は「国家のプランナー」たる古市公威だったのだ。
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