わが国は,小児医療の技術の高度化により,長期入院が増加すると同時に小児在宅医療のニーズが高まっている.薬局薬剤師が小児在宅医療へ携わる必要性はあるものの,いまだ一部の薬剤師に委ねられている実情がある.そこで本研究の目的は,薬局に勤務する薬剤師に対し,実際に小児在宅医療に携わった経験の有無とその程度を確認し,小児在宅医療を促進できない原因を抽出することにした.さらに,抽出された原因の解決に向けた今後の行動目標(SBOs)を提案することにした.はじめに,スクリーニングとして小児在宅医療を経験している薬剤師数を把握するため,全国の薬局に勤務する薬剤師を対象としてアンケート調査を行った.アンケート内容は,小児の在宅医療の経験の有無と小児の在宅医療を提案したいと思う患者(患児)がいるかを聞いた.本アンケートでは300名の薬剤師に対し16問を設定し,小児在宅医療の経験の有無,小児在宅医療を行う工夫やエピソード,さらには小児在宅医療に取り組まなかった理由等も質問した.アンケートの最後の設問で薬剤師として重要と考える小児在宅医療促進に必要な行動目標の順番を尋ね,順番と回答人数から合計点を算出した.この合計点が多い3項目を小児在宅医療促進に必要な行動目標とし,提案することにした.小児在宅医療の経験の有無は,「経験あり」が46人で全体の15.3%,「経験なし」は254人であり84.7%であった.小児在宅医療が進まない原因は,「小児在宅医療を頼まれなかったから」が一番多く93.3%であった.小児在宅医療の経験がない薬剤師にとって小児在宅医療を推進するために必要な行動目標は,「小児薬物療法における薬剤師の役割を理解し,実践できる」であった.小児在宅医療に関わっている薬剤師は少ないことが判明し,小児在宅医療に取り組まなかった理由は,「頼まれなかった」という回答が多かった.この回答には,患者が薬局薬剤師に小児在宅医療を頼めることを知らないという患者の認識の問題も含まれると考えられた.小児在宅医療の促進に必要な行動目標が明らかになったため,今後の取り組みは,小児在宅医療に関する勉強会・講演会を開催し,行動目標は「小児薬物療法における薬剤師の役割を理解し,実践できる」にした内容を計画していく必要がある.同時に,人員確保や小児在宅ケアコーディネーターの確立などの制度に関わる課題も挙げられたため,制度の見直しも併せて小児在宅医療促進に向き合う必要があると考えた.
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