折口信夫が民俗学の発生を都市空間から排除された漂泊芸能民に見出したように、「文学」と都市空間の抑圧と排除の問題は、密接に結び付いている。オーラルな世界の住人であった漂泊芸能民は、十七世紀の初頭に都市空間から排除され、抹殺された。しかし、徳川日本の都市空間の中で、排除されたオーラルな世界は、出版資本主義に結び付いたテクノロジーであるとするならば、オーラルなものの排除と抑圧は、文学の起源、しかも隠蔽された起源なのである。『千年の愉楽』で中上健次は、オリュウノオバというオーラルな世界の住人に口承文芸を見出すが、それは、『枯木灘』や『地の果、至上の時』では、見出されていなかったものである。つまり、資本主義と開発によってオーラルな世界としての路地が抹殺され、消滅した後に、オーラルな世界が再発見されたのである。本報告では、こういった関係について都市空間の排除と抑圧という視点から論じたい。
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