以上述べましたることを摘要致しますると、
(1) 先づ靜的森林生態の立場より見て、森林は即ち環境の指標である、森林を見るととによりて、逆に環境の如何を推知し得ること。
(2) 森林の構造は森林植生の出現を許す環境の構造を分解して見ることによりて説明せらるゝ即ち等質とも見るべき局部環境が相寄りたるものが森林の一般環境をなすものである。
(3)動的森林生態研究の結論の一端として、擇伐作業が完全に行はれつゝある森林は絶えざる外力の作用を受けて、常に一定の等速度を以て動きつゝある森林植生であるが、極盛相は外力の作用を受けずして其儘一ケ所に靜止しつゝある森林植生である、即ち共に不變の相ではあるが前者は動的不變の相、後者は靜的不變の相である。
(4)擇伐林は異齢局部的環境を重複なく 遺漏なく一束としたるコセレの集合であるが、皆伐林は同齢の局部的環境を一ケ所に寄せたるものゝコセレの寄りであると言ふことになるのであります。
更に進んでコセレと言ふものには二つの考へ方がある、即ち其一は、同一の植生單位に屬する植生列單位を位置を少しづゝ變へ、且年齢を少しづゝ變へたるコセレのシリースを同時に展開せしめて見ることは出來ると言ふことであります 其二は位置を變へずして、甚だしく年齢を斷續せしめたるコセレを一地點に見ることが出來ると言ふことでありまして、此詳しい説明は之を附録として掲げて置きましたる屋久島の調査報告に載せてあります。之を圖示したものがEとして壁間に掲げたものであります。
以上を以て本日此席上で申し述ぶべきことの大要を了りました。此壇を下るに際し改めて皆様の私に對する御援助の結晶が今日の私の此名譽ある講演の内容の全部でありまして、私は單に蓄音機の役をつとめたに過ぎない。而も眇たる力弱き私にとりましては此蓄音機の役をつとめることさへも大任であり且大いなる喜びであつたことを披瀝しまして、厚く御禮を申しし上ぐる次第であります。
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