【研究目的】
厚生労働省(2015)によると、中学生男女のカルシウム摂取量が基準の約半分であることが明らかになった。横浜市公立中学校の生徒たちは、横浜市公立小学校給食でほぼ毎日牛乳を飲んでいた。しかし、公立中学校では給食がなく、昼食時に牛乳を飲むことも無くなり、生活の中で牛乳摂取の機会が失われつつある。一方、現在の日本では、様々な種類の食品が店に並び、多くの選択肢がありながら、私たちは限られた商品を購入しがちである。また、同一種類の複数の商品について、それぞれの違いを知る機会も多くはない。それは牛乳も例外ではない。今日、牛乳は消費者のニーズに応じた7種類があり、それを基本として様々な商品が販売されている。成長期にある中学生にとって、牛乳を教材として、表示から様々な情報を読み取り、その情報を十分に活用した食品選択ができることを目指す授業を行う意義があると考えた。そこで、本研究では牛乳試飲体験を通して食品の特徴や違いに気づき、その違いの原因を食品表示から読み取る授業を計画・実施した。生徒が栄養的価値やニーズに応じた情報を読み取り、食品選択を促す授業をデザイン・実施し、その成果を検証することが本研究の目的である。
【方法】
研究授業対象は公立横浜市立X中学校2年生1クラス37名である。2017年7月に、飲用乳試飲体験から食品選択を促す授業を実施し、その実践授業1か月後の生徒の意識変容、食品表示の果たす役割の理解を分析し、授業の効果や意義を検討した。分析にあたり、授業前アンケート調査によって小・中学校時の牛乳摂取状況を、授業ワークシートと授業後調査によって牛乳や食品表示に対する意識変容を見取った。ここで、牛乳等にアレルギーがある生徒に対しては、豆乳(低脂肪、成分無調整、特濃等)を用意し同様の試飲体験ができるように配慮した。
【結果・考察】
牛乳試飲体験によって、生徒は同じように思えた食品の違いに気づき、表示から詳細情報を得ることで不足しがちなカルシウムなど、目的に応じた栄養素を摂取しようとしたり、牛乳が苦手な生徒も、好みの味の商品を選択できる知識を持とうとしたりするようになった。
また、牛乳のみならず、その他の食品に対しても、食品表示の果たす役割に留意する様子が見られた。例えば、ジュース購入の際には原材料の果汁配分や添加物の種類を確認するようになったという意見が示されたり、調味料だけでなく原材料の種類を確認することで食品の製造過程や品質を知ることができたりするようになったという声を聞くことができた。このように様々な食品選択の場で食品表示の重要さを認識し、詳細な情報を得ようとすることで、生活に役立つ食品選択が可能となった。
以上の結果から、授業後の牛乳に関する食品表示についての意識変容と、その他の食品選択に関する意識変容が明らかになった。小学校のときに飲んでいた牛乳の量を、生徒全員が中学生になった現在でも摂取することは難しい。しかし自分の食に関心をもち、牛乳が苦手であっても、同じような栄養素を含む別の食品を知り、その栄養成分を理解して、自分で健康管理をしようとする意識が出てくれば、牛乳以外の食材を利用して必要な栄養素を摂取することも可能となるだろう。
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