【研究目的】 少子社会の到来をふまえ、生徒の子育て理解を深めるため、保育体験実習を取り入れた授業実践が行われている。異世代とふれあう経験が少なくなっている高校生にとって、実際に幼児と接する学習は、幼児の成長や発達を理解し、接し方を学ぶことに役立っている。しかし、幼児を理解するだけでなく、将来、社会で次世代を育成していく立場に立つ高校生にとって、社会の一員として、自分の立場や役割を認識して、行動できる学習活動が必要であると考える。
そこで本研究では、幼児と交流する体験学習において、高校生が幼児に「教える」という学習活動を取り入れ、生徒の学習記録から次世代を育成していく視点を取り入れた体験学習の意義を明らかにすることを目的とする。
【研究方法】 「発達と保育」の授業において、地域の社会福祉法人Y保育園と連携し、本校の農場を活用して、高校生が園児に食育を行う体験学習を計3回実施した。授業実施前のアンケート、各回の授業後に生徒が記述した学習記録、授業全体の振り返りシートから、教えるという学習活動を通して、生徒が学び、考えたことについて検討を行った。さらに、生徒の意識の変化を探るために、3名の生徒についてケーススタディを行った。
○調査対象:国立大附属高校3年次生(67名)
○調査時期:2005(平成17)年4月~10月
○実施した授業の概要:
[ねらい]食育活動を通して異世代間交流を行い、幼児への理解を深めるとともに、
次世代育成能力
を育てる。具体的な活動内容は、第1回は田植え・農場散策・交流活動、第2回は稲刈り・米や野菜の生育過程や食べ物の大切さを園児に教える活動、第3回は調理実習・交流活動である。
【結果と考察】 生徒が体験学習全体を通して、具体的にどんなことを学んだのか、生徒の学習記録から「学んだ」「わかった」などの学びにつながる用語を含む文を抽出し、記述内容による分類を行った。その結果、「子ども理解(精神・情緒的側面)に関すること」「コミュニケーションに関すること」「教えるということ」「子ども理解(身体・運動的側面)に関すること」「子ども観」「保育士の仕事に関すること」の順に、記述が多くみられた。
とくに「教える」という学習活動に関する記述については、「いろんなことに好奇心をもち、何でも吸収しようとしている」「パワーを吸い取られる。純粋に自分たちのことを信じているから間違ったことを教えられない」という園児の様子を深く観察したり、園児に対する自分の役割を認識した様子がうかがえた。また、「園児に教えるためにまず自分がそれについて学ばなければならなかった」「どうすれば子どもが楽しく食育を受けられるかということを考えた。子どもたちを楽しませるコツを学んだ」など、生徒が学習に主体的に取り組み、園児の視点に立ってかかわろうとする姿勢がみられた。
生徒にとって授業は受身であることが多い。しかし、園児に食の大切さを教えるという学習活動は、同時に、園児から接し方を教えられるという相互作用を生み出していた。教えるという学習活動は、幼児を理解することと、次世代を育成する立場として、幼児の手本として行動する自覚を生徒に促す機会として意義があるといえる。
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