近い将来,南海トラフ巨大地震の到来が予想されている日本において防災対策は重要である。このような対策を考えるために,避難行動に関する研究が数多く実施されてきているものの,その多くは,質問紙調査や実験など避難行動に影響する要因を特定するための研究であった。しかし,そのような要因を捉えるだけでは,人々の実際の避難行動を捉えたことにはならない。今後,より効果のある避難行動対策を考案するためにも,被災者がどのように情報を取得しながら避難したのかについて具体的な径路を記述することが重要であると考えられる。そこで本研究は,複線径路等至性アプローチを用いて,東日本大震災の被災者が被災当時どのように情報を取得しながら避難行動を行なったのかを検討し,当時の避難行動径路を可視化した。それにより,防災対策の一助となる知見を得ることを試みた。その結果,被災者は避難時に(特に行動の分岐点において)「所属集団の尊重」という価値観を有していたことが示唆された。そこから,「自助」や「公助」だけでなく,「共助」を前提とした避難対策が必要であることが指摘された。災害対策を考える上では,質問紙調査や実験といった要因特定型の研究だけでなく,実際の避難行動径路の可視化などのミクロな視点での研究も必要であることが議論された。
抄録全体を表示