本論文では, W. M. ヴォーリズが近江セールズを通じて輸入した米国ミーズナー製ピアノが考案された音楽教育史上の背景を示す。その目的は, ヴォーリズの音楽観に対する理解を深めることにある。20世紀初頭の米国では器楽も含む音楽科が確立され, 学校教育の一科目として全米に広めようとする動きが起こった。このピアノの考案者O. ミーズナーは, 全米音楽指導者会議に名を連ね, スローガン「すべての子どもに音楽を」を掲げるなどその運動を先導した音楽科教員の1人である。教育機関での使用に特化した小型ピアノを考案したミーズナーは, ピアノの一斉指導用の教則本も作成した。人として生きるうえで音楽が欠かせないと考え, 一般市民を音楽の初学者として広く育成しようとしたミーズナーの様々な活動には, 「教養ある人格を造る」ものとして音楽を捉え, 日本で手がけた様々な事業に音楽をとり入れていたヴォーリズに通じるものがあると考えられる。
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