「ダカラ」は,一般に因果関係を表す接続詞とされるが,会話では,因果関係を表さず,「聞き手が自分の発話を十分理解していない」と話し手が感じる場合などに使われる用法がある.本稿では,近世末期以降の会話資料の用例を検討して後者のダカラの意味・機能を記述し,その機能拡張過程を考察した.まず,後者の用法のダカラを,[1]発話行為を明示する形のもの,[2]発話行為を明示しないが先行の発話の繰り返しがあるもの,[3]繰り返しがないものに分類し,それらと因果関係を表す用法との関係を考察した.例えば[1][2]には,[a]話し手の発話態度は後者の用法と共通するが因果関係を表すとも解釈できる例,[b]発話行為の因果関係がある例が多く見られる.結論として,ダカラは,文間の因果関係の表示という文法機能を基に,発話行為間の因果関係をも表示するようになり,さらに,話し手の発話態度の表示という談話上の機能を獲得したと言える.
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