1 はじめに
男女共同参画社会実現のためには、教育現場における隠れたカリキュラムを見直していく必要があることが指摘されている。そこで、隠れたカリキュラムの代表的なものと考えられている名簿に注目し、
男女混合名簿
実施校と未実施校における児童と保護者のジェンダー観を調査した。
2 研究方法
(1)調査対象および調査時期
対象者は、青森県内の小学校児童727名、その保護者380名とした。このうち、混合名簿実施校(以下、実施校)では児童358名、保護者81名、混合名簿未実施校(以下、未実施校)では児童369名、保護者299名であった。調査は、各学校にアンケート用紙を配布し、2004年6月から10月に実施した。
(2)調査項目
調査項目は、東京女性財団のジェンダーチェックを参考に当研究室が作成し、児童用21項目、保護者用20項目を使用した。
(3)回答方法
児童に対する回答方法は「はい」「?」「いいえ」、保護者は「あてはまる」「どちらともいえない」「あてはまらない」の三段階でみることにした。さらに、各項目についてジェンダーフリーの意識や実態を示す回答に3点、「どちらともいえない」回答に2点、ジェンダーバイアスの回答に1点の点数を与え、合計点を算出した。
3 結果および考察
(1)実施校および未実施校における児童のジェンダー観
1)合計点からみた児童のジェンダー観
実施校では、45.3点を平均とし、30点から61点の間に分布した。未実施校では、44.5点を平均とし、29点から59点の間に分布した。これより、両者には有意差(p<0.001)がみられ実施校の児童の方がフリーであった。
2)アンケート項目ごとにみた児童のジェンダー観
アンケートの各項目を両校で比較したところ、21項目中6項目で有意差がみられた。そのうち、2項目は実施校の方が、4項目は未実施校の方がフリーとなった。
実施校がフリーであった項目「女の子が野球部に入ることはよい」では、実施校の児童は、性別にかかわらず好きなことをしてよいという機会が与えられるために、そのように考えている児童が多いのに対して、未実施校は性役割にとらわれて行動を制限する傾向にある児童が多いことが推測された。一方、未実施校がフリーであった項目「女の子よりも男の子のほうがえらい」では、未実施校では学校生活において男女の優劣や上下関係を重視することが多く、それにより、性別で優劣をつけられることに違和感を覚え、フリーの考えをもつ児童が増えたのではないかと推測された。
(2)実施校および未実施校における保護者のジェンダー観
1)合計点からみた保護者のジェンダー観
実施校では、41.9点を平均とし、33点から53点の間に分布した。未実施校では、46.0点を平均とし、29点から58点の間に分布した。これより、両者の間には有意差(p<0.001)がみられ未実施校の保護者の方がフリーであった。
2)アンケート項目ごとにみた保護者のジェンダー観
アンケートの各項目を両校で比較したところ、20項目中5項目で有意差がみられた。そのうち、4項目は実施校の方が、1項目は未実施校の方がフリーとなった。
有意差のみられた項目のうち、実施校の方がフリーであった項目「学年主任や進路指導部などは、男性の先生が担当した方がよい」では、実施校の保護者の約6割は男女の優劣や上下関係を否定しているが、未実施校の保護者は肯定しない者が約46%と多くみられた。一方、未実施校がフリーであった項目「児童のやりたいことに対し教師が『女子(男子)ではなく男子(女子)のほうがいい』と言っても仕方ない」では、未実施校の保護者の方が性別によって指導を変えるのはおかしいと考える割合が高いことがわかった。合計点による全アンケート項目の比較では、未実施校の保護者は実施校の保護者よりフリーであったことから、学校生活の中にあるジェンダーバイアスを直接的、または間接的に感じる機会が多いことにより、それらに対して疑問を感じ反発した結果であると推測された。
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