雌雄のイヌを用いたS-1の0.5,1,3,6 mg/kg/day,FT 6 mg/kg/dayの13週間反復経口投与毒性および眼に対する影響の回復性について検討し,以下の結果を得た。1. 一般状態の観察では,眼強膜に黒褐色色素の沈着が0.5 mg/kg/day以上の群に投与開始後2週から,角膜混濁が3 mg/kg/day群に投与開始後3~4週から認められた。3 mg/kg/day以上の群では,自発運動の減少,鎮静などの一般状態の悪化が認められ,3 mg/kg/day群の雄1例,1雌2例が投与開始後4~5週に,6 mg/kg/day群の全例が投与開始後2週に死亡あるいは切迫屠殺された。2. 摂餌量および体重は,1 mg/kg/day以上の群で減少が認められた。3. 心電図検査,尿検査,糞潜血検査,血液学的検査,肝および腎機能検査,眼粘膜感染菌検査では投与に起因する変化は観察されなかった。4. 血液生化学的検査では,3 mg/kg/day群の雄にクレアチニンおよび塩素の減少,雌にLDH活性の上昇と,アルブミンおよびA/G比の減少がみられた。5. 臓器重量では,3 mg/kg/day群の雌雄に腎重量比の増加がみられた。6. 病理学的検査では,メラニン色素の沈着が結膜あるいは角膜にみられ,さらに,角膜上皮の萎縮,炎症,好中球の浸潤,血管新生がみられた。その他,一般に制癌剤で認められる胸腺,脾,各種リンパ節などのリンパ系組織の萎縮,生殖器系には精子形成の消失,子宮の萎縮がみられた。7. FT投与群では,大脳脳弓および前交連の空胞化が雄1例にみられたのみであり,他の検査には変化はみられなかった。8. S-1投与による主な毒性変化は眼,リンパ系組織および生殖器に発現し,死因は免疫機能障害を伴った一般状態の悪化による衰弱死と推察され,本試験の無毒性量は雌雄ともFT量として0.5 mg/kg/day 未満であった。9. S-1投与による強膜の色素沈着,角膜の白濁などの眼に生ずる変化は,角膜の白濁による視力低下は予想されるものの,その他の眼機能の障害を伴うことはなく,回復性を有する変化であった。
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