【はじめに】脳卒中患者のADL能力に関する因子に歩行能力が報告されている.その歩行能力に麻痺側下肢荷重量が関係し,体重比50~60%で屋内歩行が自立するという報告がある.麻痺側下肢荷重を促す訓練で筋力強化訓練や歩行訓練効果に関する報告はあるが,立ち上がり訓練効果を検討した報告はない.本研究目的は脳卒中片麻痺患者に麻痺側下肢へ体重60%荷重のフィードバックを行う継続した立ち上がり訓練にて,訓練前後の麻痺側下肢荷重量等の変化を検討することとした.
【方法】対象は平成18年9月~平成19年10月に当院に入院していた脳卒中片麻痺患者20例(男性9名,女性11名,平均年齢67.8±8.26歳,脳梗塞6名,脳出血14,下肢Brunnstrom StageII:4例,III:6例,IV:1例,V:2例,VI:7例,発症からの日数:68±52.57日)であった.立ち上がり訓練強化群(対象群),通常理学療法群(非対象群)に分け,対象群に対してのみ体重計を用い麻痺側に対し体重60%以上の荷重をかけて立ち上がり訓練を行うよう指導し,毎回の訓練時理学療法士によりその際の荷重量を声掛けにて伝えるフィードバックを行った.全対象者とも訓練頻度は週5日以上であった.対象群,非対象群共に訓練開始時,1ヶ月,2ヶ月後に下肢荷重量体重比(kg/kg)と等尺性膝伸展筋力体重比(kgf/kg)を両下肢各々測定した.分析方法は,1)各群それぞれの項目変化量についてFriedmanの検定を用い比較した.2)次に有意差の見られた項目についてWilcoxonの符号付き順位検定を用いて検討した.統計的有意水準は危険率5%以下とした.
【結果】1~3回目の麻痺側下肢荷重量体重比は, 対象群0.27,0.44,0.45kg/kg,非対象群0.54,0.57,0.61kg/kg,非麻痺側下肢荷重量体重比は,対象群0.82,0.82,0.79kg/kg,非対象群0.87,0.85,0.88kg/kgであった.麻痺側等尺性膝伸展筋力体重比は,対象群0.15,0.19,0.24kgf/kg,非対象群0.18,0.23,0.24 kgf/kg,非麻痺側等尺性膝伸展筋力体重比は,対象群0.47,0.49,0.50kgf/kg,非対象群0.40,0.41,0.44 kgf/kgとなった. Friedmanの検定より,対象群の麻痺側下肢荷重量体重比にのみ有意差が認められた.Wilcoxonの符号付き順位検定より対象群の麻痺側下肢荷重量体重比は,測定1回目から2回目,測定1回目から3回目のみ有意に増加していた.
【考察】本結果より脳卒中片麻痺患者に対して麻痺側下肢に体重の60%荷重のフィードバックを併用して行う立ち上がり訓練は,麻痺側下肢荷重量の増加を図れることが示唆された.これは,具体的な数値目標を示し,毎日の訓練にフィードバックを用いる事で,麻痺側下肢への荷重の意識付けが行えたことによる影響と考えられた.今後は,立ち上がり訓練による下肢荷重量の変化と歩行やADL能力の関連を検討することが必要であると考えられた.
抄録全体を表示