1.目的
調理実習の生徒の興味・関心は非常に高い。一方で、家庭科の時間数の減少に伴って調理実習の実施回数も少なくなり、調理技術の定着よりも楽しさや協力を重視する傾向もある。演者らは、生徒の学習を食生活に還元することを目的として、調理実習の内容と食分野全体の題材配列に着目した。昨年度は、包丁を扱う基本的な技術の習得をねらいとした実習を食の学習の導入に配列し、その後、献立実習と講義を組み合わせて授業を行い、生徒の関心・意欲の変化を調査した。その結果、基礎的な調理技術の向上を実感すると、その後の食の学習に良い影響を与えることができ、「食」への関心を高めることが期待できることを確認し報告した
1。本研究では、実習の回数や題材配列の異なる学校において、食分野の初回と最終回に生徒の関心・意識の調査を行って比較検討することで、題材配列を工夫したことの効果を推察することとした。
2.方法
調査1として、高校家庭科における食分野の学習の実情を明らかにするために、県内高校家庭科教師を対象に質問紙調査を行った。調査用紙は県教科研究会に参加した教員に80通配布し、郵送法により回収した。調査内容は、実施している食分野の題材配列と内容、調理技術習得に関する考え、調理実習の学習目標・献立内容等である。また、献立内容から、包丁を扱う頻度を5段階に分類し、教師の包丁の扱いに対する意識を推察した。
調査2として、調査1で回答のあった学校の内、実習回数や題材配列の異なる4校に協力を依頼し、食分野の学習の最初と最後に生徒の学習意欲や調理に対する自信、調理意欲、「食」への関心等を調査した。食分野の題材配列を工夫した授業実践を行った学校1校(昨年度の研究の実践校)を加え、5校で比較検討した。
3.結果と考察
調査1の結果、32校から回答を得た。調理技術習得に対し「必要ない」と考える教師はいないが、「実習を体験の場とする」が4割強、「栄養や献立作成等の能力を引き出す」が3割強であった。一方「工夫して技術習得させる」と積極的に技術習得の必要性を考えている学校は約2割であった。調理実習の学習目標では「人間関係の構築」を目標とする教師が多く、「科学的な理解」は少ないことわかった。献立内容から包丁を扱う頻度を見た結果、一人一人に切る作業を課している学校は5校、比較的切る頻度が多い内容を行っている学校は23校であったが、複数回切る頻度が多い内容を実施している学校は6校と少数であった。
調査2の結果、学習前調査において、高校で学習したい学習項目(16項目)を尋ねたところ、多くの生徒が「調理(魚・肉・野菜)」に関する項目をあげた(42.0~48.5%)。次いで、「食品の選び方(生鮮食品・旬・鮮度)(加工食品・食品表示・期限)」(19.9~23.5%)であった。これら学習意欲が高い項目は5校ともに共通していた。また、生徒は調理意欲や技術習得に対する意欲が高いことがわかった。最終回調査において、学習内容に対する興味・関心については、5校ともに学習項目全てについて70%以上の生徒が学習したことにより興味・関心が「深まった」とした。また「もっと深く学習したい」と思う項目を学習項目から複数選択させたところ「1日に必要な食品の種類と概量」「献立作成」「食文化」「包丁の扱い方」の4項目について学習前よりも学習後の方が、5校共通して割合が増加した。題材配列を工夫した学校では学習前調査で他校よりも学習意欲が低い傾向にあったが、最終回調査では他校と同程度まで学習意欲が高くなっていた。調理技術については、9つの調理操作を示し、自信の度合いを4段階で評価した結果、5校すべてが初回調査時よりも平均値が上昇した。特に題材配列を工夫した学校では学習による変化が最も大きかった。一方、調理実習が1回の学校(家庭基礎)は変化が最も小さく、調理技術に対する自信を高めさせるためには、複数回は調理実習が必要であると考えられた。
1)久保田・杉山(2014)「日本家庭科教育学会第57回大会,研究発表要旨集」p44~45
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